Vibramとは?──黄色いロゴに隠された、“足元の哲学”
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スニーカーやブーツの底に、小さく輝く黄色い六角形。
そこに書かれた「Vibram(ヴィブラム)」という文字を、一度は目にしたことがある人も多いと思います。
私自身、昔から靴が好きで、街歩き用から登山靴までいろいろ履いてきました。そんな中で「Vibramソール」と出会ったのは、ちょうど数年前。
正直なところ、最初は「なんか信頼できそうな名前だな」くらいの感覚でした。黄色いロゴ=高性能、そんな先入観があったんです。
でも、履いてみて感じたのは“ただの靴底”じゃないということ。
その背景には、長い歴史と職人たちの哲学がありました。
目次
Vibramの始まりは“遭難事故”から

Vibram(ヴィブラム)は1937年、イタリアで誕生しました。
創業者は登山家のヴィターレ・ブラマーニ(Vitale Bramani)。
彼は友人たちと登山中に雪山で遭難し、命を落とした仲間を目の当たりにします。その原因のひとつが、当時の登山靴の“滑りやすさ”でした。
「安全に登れる靴底をつくりたい」
――そんな想いから生まれたのが、世界初のゴム製登山靴ソール。
これが後に「Vibramソール」と呼ばれるようになります。
つまり、Vibramとは**「命を守るための靴底」**から始まったブランドなんです。
Vibramソールの特徴──ただの“グリップ力”では語れない

Vibramソールというと、真っ先に思い浮かぶのは「グリップ力」や「削れにくさ」かもしれません。
けれど実際に履いてみると、それだけでは語りきれない“設計の妙”があります。どんな地形でも足の動きに寄り添い、無理なく前へと進ませてくれる。そんな、見えないサポートの積み重ねこそがVibramの真価だと感じます。
Vibramが生み出してきた技術はいくつもありますが、代表的なものを挙げると次のようなものがあります。
MEGAGRIP(メガグリップ):
濡れた岩や滑りやすい地面でもしっかり噛みつくように踏ん張ってくれる高粘着ラバー。
ARCTIC GRIP(アークティックグリップ):
氷の上でも滑りにくいよう設計された、冬場に頼もしい特殊素材。
ROLLINGAITE SYSTEM(ローリングゲイトシステム):
足の自然なローリング動作を助け、長時間歩行時の疲れをやわらげる構造。
私自身が手掛けているブランド「YUEN」でも、この“ローリングゲイト”構造を採用しています。実際に履いてみると、足の重心移動がスムーズで、歩き続けても足が重くなりにくい。
フェスや街歩きのように、立っている時間が長い日ほど「やっぱりこれだな」と感じることが多いです。
私の失敗談:Vibramだから安心、ではなかった

最初にVibramソールのスニーカーを買ったとき、正直少し“過信”していました。「Vibramって書いてある=万能」だと思い込んでいたんです。
でも実際に履いてみると、登山向けのモデルを街で履くには少し硬すぎた。舗装されたアスファルトの上では、グリップよりも“足さばき”が重要。数日間履いていたら、かかとや足裏に痛みが出て、最初は靴ずれもできました。
それでも「せっかくのVibramだから」と我慢して履き続けていたら、少しずつ足に馴染んでいくのが分かって。そこからは、まるで“信頼できる相棒”のような存在に変わりました。
「Vibram=アウトドア専用」ではない
今では、街歩き用やライフスタイル系のスニーカーにもVibramソールが使われています。
YUENでも「TODAY」などのモデルで採用していますが、
あくまで目指しているのは“日常で使える機能美”。
登山やハイキングのためだけでなく、
「通勤も、フェスも、旅行も、これ一足で行ける」という感覚を大切にしています。
耐久性やグリップ力を活かしながらも、デザインはクラシックで自然。そうしたバランスが、今の時代の“リアルな靴選び”に合っているのかもしれません。
長持ちするがゆえの悩み──アッパーが先に壊れる問題

Vibramソールは本当に頑丈です。
数年履いても、底がほとんど減らない。
むしろアッパー(靴の上部)が先に傷んでしまうことすらあるほど。
「靴底が無事なのに、アッパーがボロボロ…」という状態になったとき、正直もったいなさを感じます。
ただ、それだけソールが長持ちするという証でもある。
リソール(靴底交換)対応のブランドなら、ソールを張り替えて再生できるのも魅力。長く履くことを前提にした“ものづくりの思想”を感じます。
もう柔らかい靴に戻れない
一度Vibramソールに慣れてしまうと、他の靴に違和感を覚える瞬間があります。特に軽量スニーカーや柔らかいソールだと、足がぐらぐらして落ち着かない。
最初は硬さを“履きにくさ”だと思っていたのに、今ではそれが“安定感”に感じる。地面をしっかり掴む感覚がクセになるんです。
フェスや出張などで長時間歩く日でも、足の疲れが全然違う。
「靴って、結局ソールがすべてだな」と思うようになりました。
まとめ:Vibramとは「信頼を積み重ねた足元」

Vibramとは何か?と問われたら、
私の中では「足元の安心感を形にした存在」だと思っています。
見た目の派手さはないけれど、
一歩一歩の積み重ねの中で“違い”を感じさせてくれる。
もし、あなたが「長く使える靴」「信頼できる一足」を探しているなら、Vibramソールの靴を選ぶ価値はきっとあるはずです。
それは単なる素材ではなく、
――“歩くことそのものを豊かにしてくれる技術”だから。