
YUENたる所以 誰も深堀しないエアバッグの世界②
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こんにちは。ESTサポートスタッフの長谷川です。
先日、うちの娘が大量の洋服を手に、
「お父ちゃん見て!新しく買ってもらったんや!」
とご満悦の様子。どうやら祖父母に買ってもらったようです。
うちの娘は一人っ子。そして祖父母にとっては唯一の孫でもありまして、一族から多大なる愛情を注がれています。
これはうちの子にとって本当に幸せな事ですし、恵まれていることには感謝すべき事なんですが、同時にうちの子には、
「足るを知る」
という事もまた、教えて行かなければならないなと思っています。
これは不足感のある状態に無理にでも慣れなさい、という訳ではなく現状に対して不足感があっても工夫やアイデアで豊かに楽しめるようなセンスや思考、自分なりの豊かさの選択肢を醸成して欲しい、という親心です。
人の欲望は無限なもので、いくら物質的に満たそうとしても、結局は不足感が残るもので、少々の不足感がある中で工夫やアイデアを施して楽しみながら充実を得る事が大切だと思っています。
「チープシック」と言う1975年にアメリカで発刊された名著があるのですが、お金をかけずにいかにおしゃれに豊かに人生を生きるかが書かれています。当時にしては非常に先進的な考え方で、現代でも十分に通用する内容です。
物質的な豊かさではなく、愛着や工夫、着こなしや健康に至るまで、多面的にファッションを捉えた作品で、様々な豊かさの選択肢を提案しています。
物質的な豊かさを追求しても豊かさには限界がありますよね。自分なりの豊かさの選択肢や楽しみ方というものをうちの子には見つけてほしいなと思っています。
我々YUENが手掛けるrererのアップサイクルもまた、チープシックに通ずる部分があるのかなと思います。高級志向や合理志向、パフォーマンスで考えるとアップサイクル品を選ぶ必要は無いわけですが、「何か愛着がわく」「ストーリーに共感する」「自分だけのもの」そういったキーワードがrererにはたくさんあるのです。
前回、エアバッグのストーリーの一部、難航した3つの工程の一つ、「染色」について書かせて頂きました。
今回は「裁断」「縫製」について。染色した後に裁断、縫製に移るのですが、こちらもまたなかなか難解で。
◆エアバッグの裁断は予測不可能。アップサイクルの難しさとは
従来、製品を作る際に生地に対してどのくらいの製品が作れるのかを図る「要尺」と言う考え方があります。
とある製品を〇〇個作るのに、生地が〇〇メートル必要。と言うものですね。
それを仕入れて製品化するわけです。
ただ、エアバッグの場合はそうは行きません。
エアバッグは
・運転席エアバッグ
・助手席エアバッグ
・サイドエアバッグ
・カーテンエアバッグ
など色々な種類があり、それぞれが形が全く違います。
また、メーカーや車種によりさらに形状が変わり、無数の種類があるんです。
我々YUENが使用するのは廃車になった車のエアバッグ。そのエアバッグはキロ単位で購入し、段ボールにパンパンに詰め込んだ状態で納品されます。廃車になった車種やメーカーは当然選べるわけもなく、色々な種類がランダムに入っている状態です。
そのため、何キロ買ったからこの商品が何個出来る、というのが正確に計算できないんです。
現在rererで展開する最も大きなバッグはsacocheという商品なんですが、このサイズの生地が取れるのは運転席エアバッグのみ。
要するにたくさんのエアバッグを仕入れたとしても運転席エアバッグが入っていなかったらsacocheは一つも作れない、、という事になります。
これは生産管理をする上で致命的な事でして。。
意図したアイテムを意図した数量作れず、安定した供給がなかなか難しい。
そして、さらに厄介なことが待ち受けています。
◆エアバッグはステッチや継ぎ接ぎだらけ。アップサイクルでしかできないデザイン。
エアバッグは有事の際、時速100~300キロというすさまじいスピードで膨らみ、命を守ります。当然衝撃を吸収するために立体構造となっており、平面ではなく様々な継ぎ接ぎをされています。
また、先ほど言ったようにすさまじいスピードで膨らませることから、破裂防止のための補強ステッチが随所に施されているんです。
補強ステッチ部分は生地が二重三重になっているものもあります。
さらに染色した後に裁断を行うわけですが、以前のブログでご紹介したように、高温高圧で染色することから、生地はしわだらけ。どう考えても正確な裁断はできません。
染色後の生地をまず、「バラシ」という裁断をします。立体構造のものをバラシて平面の生地の状態にしていきます。これがまず機械ではできず、すべて人の手によって行われます。
そのあとに高温でアイロンし、しわだらけの生地を極力伸ばす。これ普通のナイロンだと溶けてしまうのですが、66ナイロンは融点が高い特殊なナイロンの為、全く溶けません。
これでやっと平らな生地(?)が出来るわけですが、大きさもバラバラ。生地はステッチや印字スタンプだらけです。
この平らな生地になったエアバッグを型紙を当てて裁断していきます。これもまた、すべて人の手による手作業です。
エアバッグ特有の補強ステッチや、印字スタンプはデザインとしてうまく良い位置に来るように配慮しながら、大きさも形もバラバラのエアバッグの生地を最大限効率的に使えるように型紙を配置することが非常に難しく神経を使う作業です。
しかも、、この裁断は普通のはさみでやっているわけではなく、なんとヒートカッターで溶かしながら裁断しています。布端のほつれを防ぐためなのですが、ロックミシンを使用せず、ひとつひとつ裁断しています。
これでやっとのことで裁断が終了。次は縫製です。
◆エアバッグの縫製はプロでも難しい
裁断が終了した生地を縫製するのは、バッグ縫製をメインに手掛ける非常に高い技術を持った国内の縫製工場に依頼しています。
堅く、アイロンでも伸びないしわだらけで、ステッチなどの縫いにくい箇所も多く、きわめて縫製しにくいエアバッグ。rererの製品はバッグを専門にしている縫製工場ですら均一なクオリティで縫製することは非常に難しいのです。
rererのアイテムは素材こそ特徴満載ではありますがベースのデザインは非常にシンプル。これは素材上、縫製の難易度が高いことによるもの。複雑にすればするほど、コストも上がり、お客様にお届けできる価格も上がってしまうのです。
◆アップサイクル品の適正価格とは
rererに関わり、アップサイクルと言うものに携わり様々なお客様やメーカー様、お店の方々とお話する中で、良く言われる事があります。
「もともとは捨てるはずのものなんで、素材は安いんですよね?」
これは至極真っ当な意見だと思いますし、rererのアイテムもけして高額な価格、と言うわけではありません。
ただ、あくまで個人的な見解にはなりますが、金やダイアモンドですら、元々はタダです。天然資源ですから。
地中深くを掘り、研磨や精錬をし、多大な設備や技術、人の力が加わり、さらに希少性によって高い価値が付く。
エアバッグと金やダイアモンドを比較するものではないんですが、アップサイクルにも多大な技術や人の力、そして工夫とアイデアが背景にあります。
価値観は人によって様々ではありますが、本質的な価値というものはやはり、人の力や工夫、アイデアだと思いますし、だからこそストーリーが生まれ、愛着が湧き、自分だけの一つが生まれるのだと思います。
我々YUENの考える価値のあるアップサイクルがお客様にとって価値を感じることができる一つの選択肢となりますように。
rerer|レレー|は日常に彩りを添えるアップサイクルブランド – YUEN https://share.google/Ux4b6MD3Em8VWNYuc